Mad.
土は冷たく、湿っている。
最初は音があった。
シャベルが石に当たる乾いた音、呼吸が乱れる音、自分の心臓が耳の奥で鳴る音。
今はもう、ほとんど何も聞こえない。
深くなればなるほど、世界は遠ざかっていく。
なぜ穴を掘っているのかは、考えないようにしている。
考えると、手が止まるからだ。
止まれば、何かに見つかる気がした。
あるいは、自分自身に。
この穴は、人がすっぽり入る大きさだ。
最初からそうだと分かっていたのか、途中で気づいたのかは思い出せない。
ただ、掘るたびに「ちょうどいい深さ」という感覚が、どこかで測られている。
誰かに命じられた記憶はない。
逆に、自分で決めたとも言えない。
気づいたときには、もう掘っていた。
それが一番、正直な答えだった。
恐怖は、常に背中にある。
振り返れば、何かが立っている気がする。
けれど振り返らない。
振り返った瞬間、ここにいる理由が決まってしまう気がした。
絶望は、足元に溜まっている。
掘った分だけ、戻れなくなる。
掘った分だけ、選択肢が減っていく。
それでも手は止まらない。
時々、許しについて考える。
誰を許したいのかは分からない。
自分かもしれないし、世界かもしれない。
あるいは、この穴そのものかもしれない。
空はもう見えない。
光は細い線になり、やがて消えた。
それでも、暗闇は完全ではない。
土の中には、まだ温度があり、匂いがあり、確かに「生」が残っている。
この穴は、墓なのか、逃げ道なのか、祈りなのか。
答えはどれも正しく、どれも間違っている。
最後に思う。
もしここに横たわるとしたら、
それは終わりではなく、
「掘り続けた」という事実だけが残るのだと。
そして今日も、
理由を知らないまま、
穴は少しだけ、深くなる。
終わりはまだ鳴く
土の中にいた時間は
長かったけれど
こわくはなかった
守られているみたいで
ここが
世界だと
思っていた
朝は
いつも
突然で
空は
思ったよりも
遠かった
声を出したのは
だれかのためじゃない
消えないように
抱きしめていただけ
同じ音が
重なって
街は
やさしく
満ちていく
短い時間を
使い切ったあと
からだは
ひっくり返って
空を見る
まだ
なにかを
掴める気がして
手だけが
残った
直前まで
空を掴もうとするなんて
たぶん
信じることを
手放せなかった
それが
間違いだったかどうか
わたしには
まだ
わからない
でも
きれいだと
思ってしまった
その気持ちは
嘘じゃない
会場限定
LIVE 会場限定